体外受精の成否は、医師の技術だけで決まるものではありません。採取された卵子と精子が受精し、胚として育つ数日間、そのすべては培養室(ラボ)の中で進みます。温度、湿度、気相、光、振動、清浄度。胚はこうした環境のわずかな変化にも影響を受けます。
同時に、どの胚を、どのタイミングで、どのような子宮環境に戻すのか。この判断を支えるのが検査技術と、それを読み解く専門職の存在です。
生基生殖医療センターは、桃園・台北・新北(板橋)・基隆の4院それぞれに培養ラボを備え、生殖医療に必要な工程を院内で完結できる体制を整えています。以下、当グループが備える診療環境を、工程に沿ってご紹介します。
1.培養ラボ ― 胚の成長を実現する環境
24時間タイムラプス培養システム
当グループの培養ラボには、タイムラプス機能を備えたインキュベーターを導入しています。従来の培養方法では、胚の発育状態を確認するたびにインキュベーターから胚を取り出し、顕微鏡で観察する必要がありました。この出し入れのたびに、胚は温度変化やpHの変動、外気への曝露にさらされます。
タイムラプス培養システムでは、インキュベーター内に組み込まれたカメラが一定間隔で胚を撮影し続けます。胚を庫外に出すことなく、以下を連続的に記録・観察できます。
- 胚の形態
- 分裂のタイミングとリズム
- フラグメンテーション(細胞断片)の発生有無
培養環境を安定させたまま、発育過程を時系列で把握できることが、この設備の最大の意義です。断片的な「点」の観察ではなく、連続した「線」として胚の育ち方を評価できるため、移植する胚を選ぶ際の判断材料が格段に増えます。
AI胚評価システム
タイムラプスで得られた画像データに対し、AIによる胚評価システムを併用しています。
世界各地で蓄積された胚の発育記録データをもとに、AIが個々の胚の分裂パターンを解析し、スコアを算出します。このスコアは、胚培養士が胚の質を判断する際の客観的な補助指標として活用されます。
なお、AIの評価は経歴豊富な胚培養士の判断を代替するものではありません。最終的な胚の選択は、AIスコアと形態学的評価の両方を踏まえ、経験を積んだ胚培養士と医師が行います。
ガラス化凍結法による凍結保存
採取した卵子・受精卵の凍結には、ガラス化法(Vitrification)を採用しています。凍結された検体は、-196℃の液体窒素タンク内で保管されます。
急速凍結により細胞内での氷晶形成を最小限に抑える方法で、現在の生殖医療における標準的な凍結技術です。凍結胚移植を前提とした治療計画や、渡航スケジュールに合わせた治療設計を可能にする基盤でもあります。
2.遺伝学的検査 ― 移植する胚を選ぶために
着床前遺伝学的検査(PGT)
当グループでは、以下の着床前遺伝学的検査に対応しています。
| 検査 | 内容 |
|---|---|
| PGT-A | 胚の染色体数の異常(異数性)を調べる検査 |
| PGT-M | 特定の単一遺伝子疾患を対象とした検査 |
| PGT-SR | 染色体構造異常(均衡型転座など)を対象とした検査 |
次世代シーケンサー(NGS)を用いた解析基盤
国際認証を取得した検査機関と提携し、次世代シーケンシング技術を生殖医療・周産期医療の領域に応用しています。
NiPGT-A(非侵襲的着床前染色体検査)・・・研究段階の技術
胚を切開することなく、培養液中に放出されたDNAを解析して染色体の状態を推定する技術です。当グループはこの分野の研究に長年取り組み、台湾生殖医学会において優秀論文賞を受賞しています。
ただし、NiPGT-Aは現時点で国際的に臨床のルーチン検査として使用できる段階になく、PGT-Aを代替するものではありません。当グループでも通常の治療には用いていませんが、今後、臨床での有用性が確立された段階で、治療への導入を検討してまいります。
技術の可能性と同時に、その限界も正確にお伝えすることが、患者様の意思決定を支えると考えています。
3.西洋医学と中医学(漢方医学)を組み合わせた診療体制
当グループの特徴のひとつが、生殖医療専門医と中医師(漢方医)が同一グループ内で連携していることです。
中医学では、不妊の背景を腎虚・肝鬱・気虚・瘀血・痰湿・血熱といった体質の類型で捉え、それぞれに応じた処方を行います。西洋医学的な検査所見と併せて評価します。
なお、中医学的アプローチの併用は必須ではありません。ご希望を伺い、治療スケジュールを踏まえて医師が判断いたします。
4.高い専門性をもつ医療チーム
異なる専門性を持つスタッフが情報を共有し、おひとりおひとりの治療方針を決定します。なお、当院には以下の分野での高い専門性をもつスタッフが在籍し、患者様の治療を担当しています。
- 生殖医療を専門とする医師(西洋医学)
- 中医師(漢方医)
- 臨床生殖遺伝カウンセリングの専門職
- 分子生物学の研究者
- 胚培養士
- 生殖医療専門の看護師
- 治療カウンセラー
- 心理カウンセラー
- 日本語通訳